教室に思いを馳せて

元中学校英語教師のブログです。

怖かった先生が見せた涙

私が中学3年生だった頃。

 

生徒指導担当をしていた社会の男性の先生が,とても怖い先生でした。

 

生徒に怒鳴り散らすとか手を上げたりとかするタイプではなく,静かに怒りを表現するタイプ。

 

私たちを指導するときの,眼鏡の奥の冷たーい目がなんとも恐ろしかったなぁ。

 

この先生の授業ばかりは,いつも騒がしい男子もウソのように真面目になっていました。

 

そんな先生の授業で,忘れ物をしてしまったことに気付いたときの絶望感。

 

授業前の休み時間に重たい足取りで職員室に向かい,その先生に忘れ物を報告しに行きます。

 

先生に「地理の教科書を忘れてきてしまいました。」と言うと,先生の顔は途端にスーッと冷たい表情になり「なんで忘れたのか?」と必ず聞かれるのです。

 

ただ忘れたから教科書なり資料集なりを学校に持ってきてないわけで,「なんで」と聞かれると本当に困ってしまって。

 

なんと応えるのが正解なのか分からなくて,なにも答えられなくなり黙ってしまう私。

 

すると今度は,「なんで黙っているのか?」と先生に聞かれるわけです。

 

黙っていることにどんな理由を応えればいいのか,ますます分からなくなってただただ固まる私。

 

で,授業が始まる時間になるので「もういい。」と言われて,泣きそうになりながら「もう二度と忘れ物はしない!」と思いながら職員室を後にするのです。(あとで友だちに相談したら,「自分の不注意でしたって言えばたらいいんだよ。」と教えてもらいました。)

 

そんな先生が,一度だけ授業中に涙を見せたことがありました。

 

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チャイムが始まっても,いつも通りに授業を始めない先生。

 

ふぅーっと大きなため息をついて,「昨日,日本が負けたね。」とおっしゃったのです。

 

その前日,サッカーのワールドカップの予選大会がありました。

 

たしか私が中学生くらいの時にJリーグが発足して,サッカーの人気が高まっている時期でした。

 

私はサッカーにはなんの興味もなかったので知らなかったのですが,授業の前日に日本が予選敗退したのでした。

 

私は驚きました。

 

たしかに日本全国がワールドカップに注目していたのですが,先生がそんなに落胆するほど日本代表に入れ込んでいるとは思っていもいないことでした。

 

そしてもっと驚いたことに。

 

先生は,「もう色々と嫌になってね…。」と言って涙を流したのです。

 

教室の誰もが息をのみました。

 

しばらくして落ち着いた後,授業は始められたのですが,あまりの衝撃でいつも以上にみんな静かにしていました。

 

 

あのときは,なぜ日本代表が敗退したことがそんなに先生を落胆させたのか理解できませんでした。

 

でも社会人になった今なら分かる気がします。

 

強そうに見えていた先生だって,いろんなものを抱えていたのだと。

 

テレビでサッカーを見ることを楽しみに家に帰り,日本代表の活躍に励まされていたのでしょう。

 

そんなこと,もちろん生徒の私たちには微塵にも見せず。

 

だけど日本が敗れてしまったことで,先生の気持ちもなにかに負けてしまったのかもしれません。

 

先生が「弱さ」を見せたのはそのときだけで,あとは普段通りの怖い先生でした。

 

あまり生徒が寄り付かない先生。

 

でも,あの一件があってからは私たちの先生を見る目が少し変わりました。

 

それは同情とは違って,初めて身近な人に感じたというか,人間らしさを感じたというか。

 

少しだけ,私たち生徒と先生との距離が短くなったのでした。